グレムリンの伝説

 グレムリンと聞いて誰もが思い浮かべるのは、スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮、ジョー・ダンテ監督のハリウッド映画『グレムリン』(84)だろう。とある発明家の中年男が、チャイナタウンの骨董品店で偶然手に入れた愛くるしい生き物モグワイ。発明家はクリスマス・プレゼントとして息子ビリーに手渡すのだが、ビリーが「光を浴びさせてはいけない」「水に濡らしてはいけない」「真夜中過ぎにエサを与えてはいけない」という3つのNGルールを守らなかったため、モグワイは凶暴な怪物グレムリンに変貌。大量に増殖したグレムリンは、街をパニックに陥れてしまう……。

 『グレムリン』の大ヒットによって、グレムリンはさまざまなゲームや小説に登場する人気モンスターとなったが、もともとはイギリスを発祥とする妖精の一種である。歴史上、グレムリンの存在がまことしやかに語られるようになったのは、第二次世界大戦中のこと。原因不明の飛行トラブルに見舞われた英国空軍兵士の間で「故障はグレムリンの仕業だ」という噂が広まったのだ。さらにはグレムリンが計器を狂わせたり、燃料を飲んでいる姿を見たという目撃例も報告された。しかしそれらの事例は、味方である戦闘機の整備士たちの責任を回避するために、グレムリンをスケープゴートにしたという説が有力とされる。グレムリンの目撃談については、任務中に極度の緊張状態に置かれたパイロットの幻覚、妄想ではないかと推察されている。

  グレムリンはパイロットにとっては悩みの種だが、かつては人間に友好的な存在で、物理学者ベンジャミン・フランクリンらの実験を手助けしたこともあるという。ところが人間にないがしろにされて敵意を抱き、機械を壊すことで人間に復讐するようになったと語り継がれている。

  また、『チャーリーとチョコレート工場』でおなじみの作家ロアルド・ダールは、英国空軍の戦闘機パイロットだった経験を生かし、1942年にグレムリンを題材にしたおとぎ話を書いた。一度は決まりかけたウォルト・ディズニーによる映画化の企画は頓挫したものの、このときダールが創造したグレムリンのイメージは、都市伝説のようにアメリカなど世界中に広まっていった。

  戦後のグレムリンに関する映像化作品で最も有名なのが、アメリカCBSの人気TVシリーズ「ミステリー・ゾーン(トワイライト・ゾーン)」(59~64)における第5シーズンの第3話「二万フィートの戦慄」だ。リチャード・ドナー監督、リチャード・マシスン脚本、ウィリアム・シャトナー主演による同作品は、旅客機の翼に乗っている謎の生き物を目撃した乗客の悪夢のような体験を描いたもの。「ミステリー・ゾーン」の中でも屈指の傑作と名高いこのエピソードは、のちにオムニバス映画『トワイライトゾーン/超次元の体験』(83)の第4話として、ジョージ・ミラー監督によってリメイクされた。

  そしてグレムリンの伝説は、ハイテク化が進んだ21世紀においても健在で、「コンピュータのバグはグレムリンのせい」などと言われたりする。ひょっとすると、私たちが普段使っているデジタル端末やオフィス機器の中にも、悪戯好きの小さな妖精が隠れ潜んでいるのかもしれない。